詩紙 にちにち6号

*町から

対岸へ渡る術もなく
六車線の国道を眺めていたあの頃、
車のライトは今よりも強くまぶしく
排気音は止まらない流れで耳を刺し
人の数だけ生き方があること
ドライバーたちは皆、真正面だけを向き
まだ運転免許も取れない年齢の
わたしは
流されることを恐れ
流れに乗ることを怖がり
ずっとこの町にいるのは嫌だと思っていた

(具体的な思い出は断片ばかりなのに
(まぶしすぎる国道
(ふと よみがえってくる

家と学校と犬の散歩
十五歳の世界はちいさくて
テレビや雑誌や物語からあふれる
街はとおく、とおくて
製鉄所の武骨さをきっと
街の人は知らないんだろう
煙突から出る火のことも
夜は光でキラキラすることだけ広まっている
高台から眺めると
田畑、家々、工場群だけ明るくて、
突然暗くなればそこは海
面積だけは広い町だから
最寄り駅まで徒歩四十分、バスはなし
映画を見るのも
大きな本屋さんへ行くのも
一日仕事になるところで暮らすわたしとは
トーキョー、オーサカ、キョート
漢字を当てはめないくらいに
離れていた、実在するんだろうか

今、地下鉄が通り 私鉄も通る街に
暮らしている
東京には何回も行って
京都と大阪では生活して
人混みを早足ですり抜け
迷わずに電車を乗り継ぐ
すっかり「街の人」になっている
国道の車の多さは町と同じだけど
人の数は桁違いで
三階建ての一軒家がひしめき
校庭は見間違いのように狭い
子どもは空き地じゃなくて
整備された公園や道路で遊んでいる
拾った椎の実を空炒りして食べたり
桜の蜜を吸ったり
野菜の花を見たりすること、あるのだろうか
記憶がわたしを
たまに砂浜や河川敷へ行かせる
海を見たり土や草を踏んだりして
深呼吸の仕方を思い出す
夕立の前に雨の匂いがすることを
驚かれてしまう
町はわたしに息づいていて
十五歳はそっと街を見ている


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