詩紙 にちにち5号

*スプーンの代わりに

ほそい声を辿って

広いところへ出るよ

呼び声はいつも遠くから

 

あなたへ踏み出そうとすると

ゼリーのように弾かれる

今度こそ、と

するどいスプーンを持ったのに

上のほうで埋まっている

ナタデココに阻まれる

 

ひとりでも日常は回っていく

肌が乾燥するようになった

なぜかたいてい空腹

ベランダから川が見えること

昨日作ったごはんがよかった

洗面所のタオル掛けが取れた

そんなことを言う相手がなくても

ぐっと力を込めなくても

立っている、明日を迎える

 

あなたのゼリーは

わたしのゼリーでもあって

スプーンの刺し合い、

刺し違えてとっても仲よく、なりました

めでたしめでたし!

とはならなくて

ふたりの間には たぶん、

メートル級のゼリー

ひとり同士で並ぶには

そのくらいがよい、のかもしれない

他人を自分の半径に受け入れるには

芯がすくない

 

だから あなたのほそい声が聞こえる

街を見晴るかす高台で 緑道で

だだっ広い川原で 湖のほとりで

聞いたもの 見たもの 触れたもの

書き記して

いつかのあなたへ向けて

束にしておこう


*うつろい

春が呼ぶので

冬に備えた重たい身体を脱ぎ

たまご色の空気へと出てゆく

みどりは鋭さをまとう前

水彩画のあわい滲み

花々は自らの色を鮮やかにして

わたし、もう少し明るい服を着よう

 

靴も歩きやすいスニーカーにして

あたらしくない けれど

装い新たな日常は

背中に連なっていく

目のまえにひらける風景

どうってことのない街並み、

似通った日々の暮らし、

の手を握る

 

ちいさな選択の重なりで

わたしは形づくられていて

(服の色 とか

(今日のごはん とか

いつも身体は現在進行形の中にいるから

季節の移ろいに知らされ

手触り 温度

よわくても はっきり力を持つ


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