ベランダと羊

呼んでみても羊は現れず
ひとつ ふたつ と呼吸を数える夜は
一段と凍てつき
行くあてもなくベランダに出る
素足にサンダルをつっかけ
住宅街のはずれ高速道路が近い
ここは真っ暗には遠くて
こんな夜更けにも拡散しつつ灯りは届き
行き交う車が一定の間隔で
存在することに深呼吸する
おそらくはこのまま交差しない人生を
ドライバーたちもわたしも送って
いつしかこの道やこの部屋は薄ぼんやりした
思い出とも呼べない記憶に押し込む
生きていくための活動をするには
できごとすべてを覚えられないから
今夜のことをわたしは来年思い出さないだろう
それを寂しさと呼ぶなら
どこかから羊の鳴き声がして
sheep sleep sleep
ひとまず不眠から連れ去られる

羊の足跡は ぽつんと
ベランダの隅にいる

 

 

2020/1/3