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『エルンスター物語』のこと

※2017年頃に書いて、過去に使っていたブログに載せた文章です。あらすじを書き、ネタバレしています。長文です。

はじめに

『エルンスター物語』本編全5巻+番外編全2巻(日野鏡子/講談社X文庫ホワイトハート)
わたしは、全巻がまとめられているkindle版で再読した。

リリアンという主人公の名前と物語の結末を覚えていて、ネット検索してタイトルと著者に行きあたったのがしばらく前。『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』を読んで再読しようと思った。
亡国の王女リリアンが主人公。多くの場合、国の再興を果たすとか落ちのびた先で居場所を見つけるとかそういうふうに話は進むと思う。しかし、この話はそうならない。少女小説であることは間違いないし、語り手も少女で、語り口も重たくないけれど、迎える結末はハードでダークなのだ。宿命にいかに抗い、戦うかということ。どうしようもないこともあるけれど、それに諦めないで手を尽くすこと。
この物語については、ネタバレをしないで語ることができない。
というわけで、この先はこの物語を読んだことがある方や、ネタバレでも構わないという方にお読みいただければと思います。あらすじ付きで非常に長いです。

覚えていたこと

わたしが覚えていた結末は、リリアンが死ぬということ。敵と刺し違えか何かで、とにかく、死んで終わってしまう。世界の終末に瀕して、親しい人たちが海の向こうにあるという東の大陸を目指すのを見送り、詳細は忘れたけれど想い人と再会し、その想い人と一緒に敵と戦う。先に想い人が敵に討たれてしまい、その生死を確認する間も与えられず、リリアンと敵は切り結び、敵を倒して、リリアンも倒れる。確かそうだった。
初めて読んだ時は小学校高学年のはず。唖然とした。それまで読んできた物語は、どんなに過酷でも主人公は生き延びて幸せをつかむものだったから。この物語においてその点では救いも何もなく、びっくりするよりなかった。引き裂かれた想い人と再会しても幸せを掴めず、敵を倒して、自らも倒れるのだから。
読者からの反応を受けた文庫版の番外編のあとがきには、リリアンはリリアンだからあの結末を迎えるほかなかった、というようなことが書いてあった気がする。

あらすじ

ざっくりと本編のあらすじを。
物語はリリアンの一人称で進む。語り口は重たくなく、時に擬音語も混じり、10代の少女らしい心情も描かれる。待ち受けるのが破滅だとは彼女も知らないままに。
シタという国に母国バドリジアを滅ぼされたリリアンは、シタで権力を持つ王子レスターを倒すために、落ちのびた先である伯母が治める国ブロニジアで王の養子サイラスに剣術を教わる。彼女の持つ剣はバドリジアを脱出する前に息も絶え絶えな母親より「決して抜いてはならない」と言い含められ、渡されたものだった。ブロニジアとシタとの戦いがあり、そこで一度会いまみえたレスターによって、リリアンは世界が終末を迎えるときに現れるという創世神デーンの娘であると告げられる。創世の力を操ることができるというデーンの娘。レスターもまた創世の力を操ることができる。彼はリリアンを捕らえようとするものの、どうにか、サイラスに助けられその場から逃げることに成功する。しかしブロニジアの戦艦へ戻るために小舟に乗っている最中に、敵の射た矢によって初恋の人でもあったサイラスを失う。

戦の傷心をいやすため、そしてデーンの娘を聖王の妃として望むエルンスター王国の手から逃れるため、リリアンは王族2人とともに交易国オレリーアナへ向かう。大公の息子リカードと出会って、恋に落ちるものの、エルンスターの使者の策略にかかり、抜いてはならない剣を抜き、その剣を輝かせてしまう。使者は去り、続いてブロニジアから伯母である女王が危篤であるという知らせを受け、彼女は一度ブロニジアへ戻る。戻るための船に乗る前に、恋人たちが誓約を立てると必ず結ばれるいう樹のもとでリカードと誓いを立てる(その誓い方というのが、互いに手首を切り、流れる血を混ぜ合わせるという激しさ)。

ブロニジア宮殿ではエルンスターの使者が待ち受けており、彼女は半ば強引にエルンスター王国へ嫁がされる。彼女を認めない神官一派により、様々な妨害を受け、なかなか正式な婚姻を果たせない。それどころか、リリアンが宮殿を離れている間に神官一派の計略により聖王は塔で捕らわれの身になる。それを知ったリリアンは、創世の力を示し、忠臣とともに聖王を救出し、神官一派の頂点にいる神官長を塔に幽閉した。

いよいよ婚姻の前日となり、予行演習を終えたリリアンは部屋で休んでいたところをシタを装った賊によってさらわれる。さらったのはデーン神が降り立ったという高原に住む高原人たち。一度はその手を逃れ、エルンスターの都へ入ろうとしていたリカードに再会する。しかし、追手が現れたために彼と一緒に逃げることは叶わず、リカードに聖王への「リリアンをさらったのはシタではなく高原人であって、シタへの宣戦布告をとどまるよう」という伝言を頼み、別れる。高原に連れ戻されたデーンの娘リリアンは、高原人たちから創世の力について、力の使い方について教えられる。リリアン誘拐は、終末を回避するための暴挙だった。そして、エルンスター軍が高原へとやってきて、リリアンは都に戻る。婚儀は行われ、ついにリリアンは聖王妃となる。そこへシタのレスターが幻影を送り込み、不穏な予告をし、突風によりあたりを破壊した。その力を見て自分一人ではレスターを倒せない、エルンスターの力が必要だとリリアンは認識する。迎えた初夜、聖王はリリアン自らの意思がなければ夜を共にしないと言った。

リリアンが結婚して半年が経ったころ、エルンスター南西部に預言者を名乗る男が現れる。レスターこそが救世主であると言うだけなら誰も信じなかっただろうが、男はイナゴの大群の襲来を的中させ、支持者を増やしていく。

のみならず、死者がよみがえり、骸骨の身体で都を襲うようになる。リリアンの創世の力でのみ倒すことができるが、倒してもおそらくはレスターが操る創世の力によってよみがえるのできりがない。エルンスターだけではなく、ブロニジアにもオレリーアナにも現れていた骸骨たち。とうとうブロニジアは消滅し、女王はじめ落ちのびたブロニジア王家の人々はどうにか船で脱出しエルンスターの宮殿へやってくる。海の向こうにあるという東の大陸を目指すという彼らは、リリアンにも来るようにと誘うものの、リリアンはエルンスターは自分の国であるから戦う、どこへ行っても人と人との争いは避けられないと、別れを告げる。

きりがない骸骨との戦いの疲れから、神官長を幽閉していた塔の見張りが緩み、神官長を逃がしてしまう。追手を向ける余裕もない。そうして戦っていたある日、リリアンは城壁に群がる骸骨を一掃しようと創世の力で風を起こす。確かに骸骨は倒れたが城壁も一部壊れ、そこで指揮をとっていた聖王が巻き添えとなり死亡する。
見計らったようにレスターが力を使って現れ、不穏な言葉を残して去っていく。リリアンがレスターを殺せば、リリアンも死ぬのだと。リカードはリリアンが死なないための人質であり、殺さないでおく、一度会わせてやろうと。

さすがのリリアンも憔悴するが、そこへリカードがやってくる。オレリーアナも大公が死に、もう彼が守るべきものは故国にはなかった。エルンスターの宮殿で束の間の恋人らしい時間を過ごそうとしたのも叶わず、レスター側に寝返った神官長により、剣を奪われたリリアンとリカードはシタへと連れ去られていく。
シタの宮殿で、レスターはリリアンに剣を返し、力試しに骸骨たちと戦わせるが、そこにいたレスターは幻影だった。その事実に気を取られたリリアンは後頭部に打撃を受け気を失い、捕らわれる。リカードも鎖と枷で自由を奪われる。そして、本物の幻影ではないレスターが現れ、リリアンと自分の類似点をあげ、自分がいかにして力を得たのか、幼少期の幻影を浮かばせながら語る。その幻影を見たリカードが漏らした言葉に、レスターは逆上し、リカードを手にかける。リカードの姿勢からもう彼が死んだということを悟ったリリアンは、たがが外れ、レスターを剣で刺し殺す。刺し殺して、レスターの不吉な言葉通り自らも死んでいく。せめてリカードのそばに向かおうとしながら。
(ざっくりというには長いけれど、これでもサイラスの素性とか姉妹との再会とかだいぶんそぎ落としてはいます…。)

本編の感想

さて、ようやく本編の感想です。
リリアンが死ぬということは知っていて読んだのだけれど、やはりこの結末は衝撃的。過酷な宿命は過酷なまま、リリアンに苛烈な人生を与えたのだった…。
世の中にはままならないことがある。どうにかしたくてもどうにもできない、運命や宿命と呼ぶよりほかないものがある。それを粛々と受け入れるのではなくて、逃げるのではなくて、抗い、戦い、それでもままならないのだとしても、自分が自分でいることを諦めないこと。そうして、どうにもできないものをどうにかしようとした努力は、誰にも傷つけられないものだということ。たとえそれが無駄に見えたとしても、どこかの未来にはつながっていると信じたい。

創世の力は建設的にも破壊的にも用いることができる。レスターは破壊に用いた。リリアンはどうなんだろう、あくまでもレスターをはじめ敵を倒すために使ったけれど、最後はリカードを殺されたその怒りによって、決定的に破壊の方へと向いたのだ。だからその負のエネルギーは彼女自身をも貫いた。リリアンの力があれば終末を食い止められるだろう、という高原人の思いも叶わず。
力は用い方によって、善悪どちらにも転ぶし、だからこそ力を持つ者はより一層自らを律しなければならないのだろう。でも、創世の力はそんな人の思惑に左右されるようなものではなくて、力の側が人を宿命づけ動かしているかのようだった。どうしようもないものに宿られてしまったリリアンとレスターはその点で表裏一体であり、同時に倒れるよりなかったのかもしれない。

それにしても、終幕の迎え方があっけなくて、それもまた衝撃の要因だろう。確かに不用意な一言で人を怒らせることはあって、敵方の宮殿での言葉には気をつけなければならないという点でリカードは迂闊だったし、リリアンを死なせないために今まで殺さずにいたリカードをたった一言で殺してしまうレスターの短気(いくら眼前にいるとはいえ…)、それを受けてたがが外れたリリアンの狂気。本当にいきなり、あっけなく終わりがやってくる。この無残さも、生きることの一側面ではあるなと思いつつも、戦いとも言えない終わりがやはり衝撃だった。

また、人を愛することによって、人は人らしく生きられるという側面があるのではないかと思った。リリアンは何度も魔(破壊)の方へ傾きかけるけれど、そのたびにリカードを思い出して、彼のもとに行き、東の大陸を共に目指すことを信じて、乗り切っていたのだから。ふたりで東の大陸へ行くことは叶わなかったし、必ず結ばれるという誓いもほぼ同時に死出の旅に出るという果たされ方だったけれど、生きているときに共に過ごした時間や互いを思ったひとときは幸せだったのだろう。

話のスケールに対して、本編が全5巻というのは大きさがあっていないという気がする。展開が早すぎて、場面転換が急に感じられて、もっと掘り下げたりじっくり書いたりしたかった部分があるのではないだろうか。電子版あとがきによると、一人称で全5巻、それを半年で刊行するという話だったそうで、仕方がないかなぁとは思う。半年間全力で書かれたのだろうということはすごく伝わってくる。これが、三人称で巻数がもう少し出せていたら、リリアン側だけでなくレスターはじめ敵側の思惑なども書き込まれて、より深みがあり壮大で激烈な物語になったように思えてならない。

番外編のこと

番外編についてもちょっとだけ。
『荒野に咲くべき花』
シタのレスター王子の両親ダーハル王とサラ王妃(エルンスター王国第二王女)の話。ダーハル王がどこまでも報われない…。叔父をはじめ政敵は多いわ、エルンスターの都を包囲し解放と引き換えに王女サラを妃に迎えたものの、心を通わすどころか典医と姦通されるわ、側近は誰を信じていいかわからない状況になるわ…。ここでもどうにもならないことはあって、どうしようもないものは、どうしようもないのだなぁと思わざるを得ない。

『南を指す魚』
短編3編収録。比較的穏やかな2編と、過酷な1編としてサイラスの物語が収録されている。サイラスの話は、人の暗い面を思い知らされるような内容で…。
文庫版のあとがきがついていました。やはり、

「(前略)リリアンはあーゆうふうになっちまったからこそ、あーゆー死に様を迎えなければならなかったんです。これだけは譲れません。」

と書かれていて、まあ確かにその通りだなぁと思う。シリーズを通して、どこまでも報われないこともあるのだという過酷な現実、どうしたって抗えない運命や、社会や世界からのくびきなどがあるということを思い知らされる。その中で、迷ったり疑ったりしながら、苦痛に耐えながら、それでも生きたのがリリアンなのでしょう。

10KB超です。お読みくださった方、ありがとうございます。