風が洗う


風が吹き抜けるとき
雑多な手の気配がして
ひとびと、同じ空気の中に詰まっている
着実に日々は進み
逃げ込む場所を隠し持つ
この、わたしであることを
知らせる必要のない人には
単なる姿だけさらして
繋げる手には限りがあるから

これまで取りこぼしてきたいろいろなものは
たぶんこの先も掴めない、そういう巡りのなか
手のひらに乗ったものは落とさないように
落ちていくとしたらそのままにして
終わりがあることに深呼吸する
すべてを持ち、抱えてゆくことなど
できはしなくて

止む気配のない風は
街を洗う
通り過ぎてきたものごとを目の当たりにした
その瞬間を忘れさせるように
身体を吹き抜けていく

2023/9/23
「おしゃべりと詩と何か」長谷川書店水無瀬駅前店の軒先にて。風が強めの日でした。